大判例

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東京高等裁判所 昭和44年(う)381号 判決

被告人 大郷甕

〔抄 録〕

論旨は、原判示第一の二の(一)、(二)および同第一の三の公正証書原本不実記載、同行使の各事実につき、原判決は、被告人有住が被告人坂本と共謀して右各犯行を犯したと認定しているが、被告人有住としては被告人坂本に対し、見せ金払込による増資登記手続を依頼したに過ぎず、原判決認定の如き架空債権者の架空債権と増資株式の引受に基づく払込金債務とを相殺する方法による増資登記手続については全く認識がなかつたから、右各事実について被告人有住が被告人坂本と共謀したとの原判決の認定は、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認であると主張する。

よって按ずるに、前掲各証拠によれば、前段説明のように、被告人有住は、被告人大郷より陽泉産業株式会社の資本金五十万円を五千万円に、さらにこれを七千五百万円に増資登記手続をするよう依頼せられ、自ら原判示第一の一の(一)、(二)の登記手続を見せ金払込の方法によりしたのであるが、資本金五百万円を五千万円に、さらにこれを七千五百万円に増資登記手続をする必要な見せ金を調達することが不可能であったため、被告人坂本にこれを依頼したので、同被告人において原判示第一の二の(一)、(二)、同第一の三のとおり、架空債権債務相殺の方法により各増資登記手続をしたことが認められる。ところで、見せ金による株式払込も、架空債権債務相殺の方法による株式払込も、共に当初から真実の株式の払込として会社資金を確保する意図なく、単に払込の外形を整え、真実株式引受人による払込があつたように仮装して増資登記申請をする点においては、何ら異なるところはないのである。従って、所論の如く、被告人有住が被告人坂本に対し、前者の方法による増資登記手続を依頼したのに対し、被告人坂本において後者の方法による増資登記手続をなし、被告人有住においてその認識がなかったとしても、右被告人ら三名共に、増資株式の払込を仮装しながら、その情を秘し登記官吏に対し、真実株式引受人による払込があり増資が完了した旨登記申請をすることの認識、意思において共通しているのであるから、学説上いわゆる方法又は打撃の錯誤の一場合であって、被告人有住において、被告人坂本と共謀の上原判示第一の二の(一)、(二)、同第一の三の各犯行を犯したとの原判決の認定は相当であり、この認定には、所論のような事実誤認は存しない。それ故、所論は理由がない。

(井波 足立 丸山)

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